不定愁訴 ふていしゅうそ| 症例集 「不定愁訴（ふていしゅうそ）」 |
| 不定愁訴 ふていしゅうそ |
| 現代は情報過多の時代です。あふれる情報に踊らされて自分にとって何が大切なのかが分からなくなってしまいます。健康に関するＣＭもとても増えました。「○○なら病院へ」「○○ならこのサプリメント」そして病院でも大量の薬が処方されます。 不定愁訴という症状があります。読んでお分かりのように、いろいろな症状を訴える病気です。 �仝撞朶鏃� 息切れ、呼吸困難 �⊇朶調鏃� 動悸、胸苦しさ、冷え、のぼせ ��消化器系 吐き気、胃のもたれ、食欲不振、便秘、下痢 �で梢牲亰� 頭痛、頭重、めまい、立ちくらみ、眼精疲労や痛み、耳鳴り �ケ親梓鏃� 肩こり、腰痛、筋肉痛、関節痛 �θ臟∪舷４鏃� 頻尿、残尿感、生理不順、インポテンツ �Я歓半評� 不眠、倦怠感、疲労感 �╂鎖静�な症状 不安感、憂鬱、集中力低下、情緒不安定 これらが組み合わされて多様な症状になります。そして内科を筆頭に精神科や産婦人科、脳神経外科や皮膚科などありとあらゆる病院を巡り歩くことになってしまいます。しかし、どの科を受診してもはっきりした診断がつかずに路頭に迷ってしまうのです。「気のせい？」けれど実際に身体も心も調子が悪いのです。こんなに調子が悪いのだからきっと重大な病気が隠されているはずだ。当院にはあちこちの病院から見放されてくたびれきった患者さんがたくさん訪れます。 ■ＡＴさん ３９歳 女性 主婦 １年ほど前から頭痛がするようになり、寝つきも悪くなった。病院で頭痛薬と睡眠導入剤をもらって一時楽になっていたが、朝早く目が覚めるようになった。痛み止めの副作用なのか胃の痛みを感じるようになり、そのころから動機やめまいがするようになった。３ヶ月くらい前から精神安定剤を処方されていて、それから昼でも頭がぼうっとしてしまい、家事労働がおっくうになってきた。内科の医師は精神科への通院を勧めてくれたが、友人から当院を紹介されて藁をも掴むつもりで来院したとのこと。 最初ＡＴさんを診察したとき、これはかなり重症だと感じました。私の質問に対してちゃんとした答えが返ってきません。「朝起きたときからどきどきして」「だんなはいびきをかいて寝てるし。もう蹴飛ばしてやりたいよ」「頭はぼうっとするし、毎日毎日夕食作るのも面倒だし」などなど！１時間話を聞く必要があるとは思ったのですが、私は鍼灸師でカウンセラーではないのでとにかくベッドに仰向けになってもらいました。 脈を診ると交感神経が著しく興奮しています。東洋医学的にもいくつか問題点が見つかりました。私が脈を診ると、「脈が速いでしょ？あんまり脈が速いからもう長くないって思うんです。子どももまだ小さいしいろいろ考えるとどうにもならなくなるんですよ」と言います。こういう患者さんに対して「脈は速いけど命に関わるほどではないですよ」などというと向きになって反論してきます。「そうですね。脈が正常になるように調節しましょう」と答えて交感神経を沈める鍼をしました。とにかくＡＴさんがリラックスすることを目的に治療を進めました。二日後の来院を指示して帰宅していただきましたが、はっきり言って２度目の来院はしてくれないかもしれないと感じました。 二日後にＡＴさんが来院したとき、ひどく落ち着いているのにびっくりしてしまいました。前回の治療がとても良い気持ちだったそうで、２度目の来院を楽しみにしてくれていたそうです。２回目から本格的な治療が始まりました。東洋医学的に時間をかけてゆっくり脈の調整を行いました。その後腹部の緊張をとるための鍼をし、首から肩、背中の緊張をとるべく鍼とマッサージを行いました。もちろんその間もいろいろと話をしてくださいました。 週２回の治療を１０回ほど行い、脈も落ち着き、多様な症状もかなり軽減したので週１回の治療に切り替えました。そのころから薬もほとんど必要がなくなり、今では月に１度来院しています。 ＡＴさんは昔からあまり外に出ることが好きではなかったそうで、最近はあれこれと新しい料理に挑戦しているとかで、たまに手作りのパンやケーキを持ってきてくださいます。 ■患者さんを診察して思うこと 不定愁訴の患者さんはほんとうにたくさんの薬を飲んでいます。症状に応じて薬が処方されていて、楽になるためには仕方の無いことかもしれませんが、そんなに薬を飲んだら身体がおかしくなってしまっても不思議ではないと感じてしまいます。ある症状に対して薬が処方され、その副作用らしい症状に対してまた次の薬が処方される。消炎鎮痛剤、抗不安薬、自律神経調整剤、抗生物質、睡眠薬、そして胃薬。数ヵ月後には「あなたは統合失調症です」と言われてしまったという人を何人も診てきました。確かに判断力が落ちているように感じることも多々あります。何年も何年も体調不良が続き、ありとあらゆる治療をしても治らないのですから無理もありません。自分は永久にこのままなのかしら？もう昔のように楽しい思いをすることは２度とないのかしら？考えれば考えるほど落ち込んでしまいます。 そういう患者さんも鍼治療を数回受けるとどんどん変化していきます。家族との関係、仕事への不安、恋愛のもつれなどなど治療をしながら話しをしてくれるようになります。そして数ヵ月後には見違えるように元気になります。 私は鍼灸師なので薬について指示を出すことはできません。だからこそ医師には慎重に投薬をして欲しいと願っています。そして患者さん自身も身体についてもっと知って欲しいと思います。薬には必ず副作用があるということをしっかり認識して欲しいと思います。 アメリカでは代替医療が半分以上を占めているそうです。それはアメリカの保険制度にも起因しているのでしょうけれど、いわゆる西洋医学で処方される薬に疑問を感じている人が多いからでしょう。 社会の進歩についていくこともなかなか大変です。人間関係も複雑でときには疲れてしまいます。進歩についていけなくてもいいではないですか。複雑な人間関係で疲れたら一人でじっとしていてもいいのです。たまにはおもいきり落ち込んで泣いてもいいのです。いつも元気でいる必要はないと私は思っています。明日元気になれたらいいですね。スローライフでいきましょう。 |
