ここが知りたい健康情報   「生活不活発病」 せいかつふかっぱつびょう
生活不活発病 せいかつふかっぱつびょう

 生活不活発病とは、その名のとおり生活が不活発になったことが原因で身体や頭の働きや機能が低下してしまう病気です。この病気は誰でも陥ってしまう可能性のある怖い病気ですが、しっかりした知識があれば防ぐことのできる病気です。
 私がなぜこのコラムを書こうと思ったかですが、患者さんを診ていて年齢と生活力は無関係だと思ったからです。ここでいう生活力とは収入のことではなく、毎日の生活のあり方です。たとえば80歳でも自分のことは普通にでき、会話も若い人となんら変わらずにスムーズな人がいるかと思えば、40歳でも食事の用意や洗濯など日常生活のことを誰かにしてもらい、1日中ごろごろ過ごしている人もいます。前者の80歳のおばあちゃんは息子夫婦が共働きなので自分が家事を一手に引き受けているそうで、自分がしっかりしなきゃ家が回らないと言われました。後者の40歳の人は親が何でもやってくれるので巻かせきりにしているそうで、会話をしても反応が鈍く認知症になりかけているのではと心配してしまいました。
 なぜこういうことが起こるのでしょう。私はずっと疑問に感じ調べてみました。そして「なるほど!!」という書物に出会ったのです。大川弥生著「動かないと人は病む 生活不活発病とは何か」という書物です。大川弥生先生は高齢者について書かれていますが、若い人でもいろいろと理由をつけて生活が不活発になることによって、身体の機能も頭の働きも低下するのではと考えています。
 生活不活発病はほんの些細なことから起こります。仲の良かった友達が亡くなってしまい、一緒に出かける相手が居なくなった。突然スーパーがつぶれてしまい、一人では買い物に出かけられなくなってしまった。若い人では会社が倒産してなかなか就職口が見つからない。その結果として生活が以前より不活発になってしまい、疲れやすくなったり、たまに外出しても長い距離を歩けなくなったり、だんだんと長く立っていることもできなくなってしまうのです。
 生活不活発病は本来なら高齢者のリハビリテーションに関わる廃用症候群のことをいうのだと思います(大川先生は廃用症候群というマイナスイメージを嫌い、生活不活発病と名づけたとのことです)。ですから、私が今書いていることは本来の意味からはずれているのかもしれません。しかし、動かないと人は病むということを若い人を含めて考えて欲しいと思います。
 先日テレビを見ていたら、食堂で元気に働く89歳のおばあちゃんが出てきました。年金がないから一生働かないとと笑いながら話してましたが、とても生き生きしていてすてきだなあと思いました。当院の患者さんでも70歳を過ぎてもお仕事をされている人がいます。年金もそれなりにあるそうですが、特に趣味もないので働いているのだそうで、リタイヤしている友人たちよりは自分のほうが元気だと胸を張って話しておられます。

高齢者が生活不活発病になると寝たきりに繋がります。それに対し若い人が動かずにいるとどうなるでしょう。寝たきりになるとは思えませんが、身体の機能が衰えるとともに脳の働きが低下していきます。人生がこれからだというのに仕事も家事もできなくなってしまうのです。そういう人が面接にいったとしても、採用する側としては二つ返事でOKすることはできないと考えられます。
 動かずに過ごしてしまうと身体や脳の働きが落ちるだけではありません。食欲がなくなったり、疲れやすくなったり、頭痛や頭重感覚えたり、めまいや耳鳴りが起きたりなど体調不良に陥ります。そのために不必要な薬が投与されることで、本物の病人になってしまうのです。
 第二次世界大戦中アメリカで「安静の害」と寝たきり実験」が行われました。若い健康な良心的反戦者(兵役を免除される代わりに市民への奉仕の義務がある)数人がボランティアとして参加して、6週間の絶対安静の生活をしてもらったのです。24時間の完全な寝たきり状態。手足を動かすのは厳禁。寝返りはさせてもらう。食事は食べさせてもらう。というのがルールです。
 その結果は驚くべきものでした。安静をとると直ちに、骨から溶けて出てくるカルシウムと筋肉のたんぱく質が分解して出る窒素が尿の中に増え始め、安静が終わるまで増え続けたのです。心臓の働きも低下し、絶対安静6週間後には、安静前のテストと同じだけの運動量では、脈拍数は3割り増しになったのです。これは安静にしていれば心臓を激しく使うことがないので、心臓が一回拍動するごとに送り出す血液の量(一回心拍出量)が少なくなってしまい、運動のためには拍動する回数を増やさなければならなくなったわけです。
 しかも、失った分のカルシウムや窒素を取り戻し、心臓のはたらきが元に戻るには、安静をやめてふつうの生活に戻ってから、安静の期間とちょうど同じ6週間が必要だったというのです。若い人だから、このくらいの期間で回復できたのであって、中高年の人では回復にはもっと時間がかかることがその後の実験でわかっています。

生活不活発病を防ぐには自分が何をしたいのかを具体的にイメージすることが大切です。ただ何かの仕事に就くというようなことではなく、大好きな旅行がしたいからそのためにお金を貯めたいとか、あそこの楽器屋にあるギターが欲しいからがんばるなど具体的に想像することで仕事に就く意欲もわいてくると思われます。
 若い患者さんにもっと積極的に行動するようにとアドバイスすることもそれなりに難しいと感じています。動けない理由をいろいろ考えては反論してきます。こういうとき精神科の医師ならどのような話し方をするのかしらと思いながらあれこれと工夫するのですが、実際精神科や心療内科に通院している患者さんではただ薬物投与されているだけのことも多く、大切な若さが無為に失われていくことが残念でなりません。
 このように若いうちから生活不活発病ということになれば、高齢者になると早いうちから車椅子や寝たきりになると想像されます。2014年には65歳以上の人口が25%を超えました。4人に1人が高齢者です。介護が必要な人が増えれば若い人の負担がどんどん増してしまいます。将来寝たきりにならないためにも若いうちから動く努力をしたいものです。

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